老犬がご飯を食べない時はどうすればいい?食べさせ方からおすすめのおやつまで紹介
老犬では食事量の減少や食欲の低下、食の好みの変化、食器や食事台の見直し、食事の介助などいろいろ問題が出てきます。その犬の状況に合わせた対処が必要になりますが、特に初めての老犬の介護では不安や戸惑いもつきもの。そこで、この記事では老犬の「食べる」「食事」にまつわる気をつけたいポイントをご紹介します。
老犬では食事量の減少や食欲の低下、食の好みの変化、食器や食事台の見直し、食事の介助などいろいろ問題が出てきます。その犬の状況に合わせた対処が必要になりますが、特に初めての老犬の介護では不安や戸惑いもつきもの。そこで、この記事では老犬の「食べる」「食事」にまつわる気をつけたいポイントをご紹介します。
目次
人間同様、シニアになった犬は食事の面でも変化が出てきます。まずは、どんな変化があるのかを見た上で、それぞれの対処法を考えてみましょう。
老犬になると活動量が低下するのに伴い、必要カロリーが減ってくることから、自ずと食事の量が減る傾向にあります。
また、老犬では水を飲む意識が低下し、さらには水飲み場まで行くのが面倒、または困難などによって飲水量も減りがちです。
対処ポイント①
老犬では、基本的に以下のようなものを含む食事が推奨されます。
どれも大事な要素である中、特に注目したいのはタンパク質です。
老犬では筋肉量が低下しますが、筋肉には、①身体を動かす、②姿勢を保持する、③心臓や内臓、血管などを動かす、④体内の熱を発生させ、体温を維持する、⑤免疫力の向上、⑥水分の貯蔵、⑦生理活性物質の分泌などの働きがあることから、老犬になるほど筋肉が重要になります。
その筋肉をつくるにはタンパク質が必要であることから、老犬には良質なタンパク質を与えるようにしましょう。
対処ポイント②
体内の水分量が15~20%失われると死に至ると言われるほど、人間でも犬でも水分は生きていくのに欠かせない栄養素の一つです。また、水分不足は尿結石ができやすくなる他、急性腎不全や循環器障害、消化管潰瘍などにも影響すると言われるので、老犬では十分な水分が摂取できるようにしたいものです。
もし、愛犬の飲水量が少ないようならば、レトルトフードやスープなどを用いて食事に含まれる水分量を増やすといいでしょう。その他、自力で歩ける老犬の場合は、飲水対策として、水飲み場を1~2ヶ所増やすのも一つの方法です。
⇒参考:1日あたりの正常な水の摂取量の目安=体重1kgあたり20ml~90ml(公益社団法人 埼玉県獣医師会「水の飲み過ぎは病気のサインかもしれません!」より
https://www.saitama-vma.org/topics/水の飲み過ぎは病気のサインかもしれません!/
老犬では加齢による運動量の減少、体力・気力の低下、病気、体の痛み、ストレスなどによって食欲が低下しがちです。
認知症の犬では、食べ物や食べる行為そのものを認知できずに食べないことも考えられますし、逆に認知症によって食欲が増加するケースもあります。
対処ポイント①
食欲が低下している場合、食事に好物をトッピングする、人肌程度に温める(匂いが際立つ)、スープをかける(食べやすくする)、フードを替える、手作り食に変更するなどによって食べることがあります。
なお、食欲の低下や増加は病気に起因する場合もあるので、気になる時には動物病院で診てもらいましょう。
対処ポイント②
もちろん、お腹がすいていなければ食べないので、動ける犬であるなら、室内や庭を歩くなど無理のない範囲で軽く運動してみるのもいいでしょう。
対処ポイント③
認知症によって食欲が増している場合、食べ物ではないものでも口にしてしまうことがあるので、犬にとって危険なものは犬の周囲に置かないようにしましょう。
犬も高齢になるとものを飲み込む力(嚥下機能)が低下しますが、これによって食事量が減少し、結果的に食欲低下につながることがあります。
対処ポイント①
飲み込みやすいように、食材はなるべく細かくカットする、ふやかす、すり下ろすなどして与えるようにしましょう。
老犬に限らず、リンゴや梨のようなカットした果物などが喉や食道に詰まって危険な状態になる犬のケースはあるので、食べ慣れているからと安心せず、愛犬の年齢や食べ方などを考慮して判断してください。
一般的に人間の介護では、口の中で食べ物がバラバラになるより、ある程度まとまっているほうが飲み込みやすいと言われますが、食事を口の中へ入れてやらなければならない犬の場合は(流動食を除く)、喉を通る程度の小さめのお団子状にして食べさせるといいかもしれません。
加齢によって消化機能も低下し、栄養を吸収しづらくなるのに加え、便秘や下痢が見られがちになります。
対処ポイント①
消化しやすいように、食材は細かくカットして軟らかく茹でる、ふやかす、すり下ろすなどして与えるようにしましょう。
対処ポイント②
消化機能が低下する原因は腸内環境の乱れ、胃酸の分泌低下、膵臓や胃腸系の病気、タンパク質不足などの他、消化酵素の不足も原因となり得ます。
消化酵素にはタンパク質を分解するもの(プロテアーゼ)、脂肪を分解するもの(リパーゼ)などいろいろありますが、これらが不足することで栄養を吸収しづらくなるのに加え、消化不良を起こしやすくなってしまうのです。
また、近年では犬でも「腸活」が注目されています。「第二の脳」とも言われる腸には免疫細胞のうちおよそ70%が存在すると言われ、腸内環境を整えることは、消化機能の改善はもちろん、免疫力の向上にもつながるわけです。
ご存知のように、免疫力は歯周病からアレルギー疾患、心臓病、ガンなど様々な病気に関係します。
そこで老犬の食事には、消化酵素や、腸内環境を整える作用があるプロバイオティクス(乳酸菌、ビフィズス菌など)、およびそのエサとなるプレバイオティクス(オリゴ糖、一部の食物繊維など)が配合されたフードや食材、サプリメントを積極的に摂り入れたいものです。
対処ポイント③
消化機能が低下している老犬では、消化器になるべく負担をかけないよう、1日の食事を数回に分けて与えるようにしましょう。
食器を前に脚が踏ん張りきれない、姿勢が保てない、ふらつく、また前庭疾患のような病気で首が曲がっているなど、これらは老犬で多く見られる症状ですが、こうなると食欲はあっても食べる行為自体に支障が出るため、何らかの形で補助が必要になります。
場合によっては、うまく食べられないことから、食べることを諦めてしまう犬もいるので、補助が必要かどうかは見極めるようにしましょう。
対処ポイント①
多少のふらつきはあっても、まだ自力で立てる犬の場合、以下のような条件は犬にとって辛いと思われるため、改善が必要です。
対処ポイント②
たとえば、前庭疾患によって首が曲がり、かつマズルの長い犬では、深みのあるお皿では食べにくく、むしろ平らなお皿のほうが食べやすいことがあります。
また、このような犬では首がぐらぐらして定まらず、食器を置いて食べさせるより、首の動きに合わせてお皿を手で持っていてあげたほうが食べやすい場合もあります。
このように犬の状況によっては角度をつけられるお皿がいい、安定した重みのあるお皿がいいなどあるので、愛犬がごはんを食べにくそうであれば食器の見直しも必要です。
やがては自力で食べることも飲むことさえも難しくなってきます。この状態では寝たきりであることがほとんどだと思いますが、そうなると1日に数回、ごはんを食べさせたり、水を飲ませたりしなければなりません。
対処ポイント①
寝たままで頭部が低い状態、または犬を抱き支えた時、喉が伸びきって口先が上に向いた状態で食べ物や水を与えるのは誤嚥のリスクが高く、タブーとされます。
寝たままで与える場合は、犬の頭の下に枕やクッションなどを置き、頭部が少し高くなるようにして与えるようにしましょう。
犬を抱いて支える、または姿勢補助具を使用して与える場合は、なるべく犬が起きている状態に近い姿勢にして与えるようにします。
対処ポイント②
この段階では流動食を与える犬が多くなると思いますが、流動食や水は犬の口の大きさにより、シリンジ(針のない注射器)、またはハチミツやドレッシングの空容器を使用すると便利です。
与える時には、犬の口の端に容器の先端を差し込んで、少量ずつ注入します。与えるごとにちゃんと飲み込んだか確認するようにしましょう。
対処ポイント③
高齢犬では口を開けること自体が難しい犬もいます。栄養は摂らせたいものの、だらだらと時間をかけてごはんを食べさせていると、当の老犬には負担になることもあるので、なるべく手際よく、手短にごはんを食べさせるようにしましょう。
以上、老犬の「食」について見てきましたが、たとえば、インスリノーマ(膵臓の内分泌系細胞にできる腫瘍で、インスリンの過剰分泌により低血糖や痙攣、運動失調、振戦などの症状が出る)を患う犬では、低血糖になるのを防ぐため1日の食事を4~6回程度に分けて与える必要があり、場合によっては空腹時間をなるべくなくすために老犬でも敢えてカリカリのドライフードを食べさせるケースもあります。
このように持病があり、食事コントロールが必要な犬では、まさに命をつなぐためのごはんとなるわけですが、一方で、残された時間が短い老犬ゆえに、せめて好物を食べさせてやりたいと考える飼い主さんもいます。
状況によっては、時にその狭間で悩むこともあるでしょう。いずれであっても、愛犬の食事が飼い主さんにとって義務となってしまっては辛くもなります。
少しでも食べてくれたら、それでよし。いろいろある老犬の介護生活の中で、愛犬の食事タイムが、互いにとって掛け替えのない一瞬であることを意識できる飼い主さんでい続けられますようにと願います。そして、皆さんの愛犬が今日もごはんをちゃんと食べてくれますように。
(文:犬もの文筆家&ドッグライター 大塚 良重)
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厚生労働省 『統合医療』に係る情報発信等推進事業 eJIM(evidence-based Japanese Integrative Medicine)「海外の情報/オメガ3系脂肪酸」
https://www.ejim.ncgg.go.jp/pro/overseas/c03/10.html
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監修いただいたのは…
2018年 日本獣医生命科学大学獣医学部卒業
成城こばやし動物病院 勤務医 獣医師 高柳 かれん先生
数年前の「ペットブーム」を経て、現在ペットはブームではなく「大切な家族」として私たちに安らぎを与える存在となっています。また新型コロナウィルスにより在宅する人が増えた今、新しくペットを迎え入れている家庭も多いように思います。
その一方で臨床の場に立っていると、ペットの扱い方や育て方、病気への知識不足が目立つように思います。言葉を話せないペットたちにとって1番近くにいる「家族の問診」はとても大切で、そこから病気を防ぐことや、早期発見できることも多くあるのです。
このような動物に関する基礎知識を、できるだけ多くの方にお届けするのが私の使命だと考え、様々な活動を通じてわかりやすく実践しやすい情報をお伝えしていけたらと思っています。